①イヤリング
大学最初の体育の授業、内容は卓球。履修の理由は卓球経験。
恥をかかずに済むからだ。
クールなキャラを意識して片耳にイヤリングをし、澄まし顔を作り、空いた時間は黙々と壁打ちをしていた。
ところが、卓球とは意外と会話がしやすいもの。
特に初対面などは何もないよりも遥かに早く打ち解ける。
何回か授業を重ねるうちに、少しは話しやすい女子ができると「ずっと壁打ちしてるしヤバい人だとおもったけど、全然そんなことなかったね」と笑われた。
軽く苛立ちつつも心のどこかで安心する。
しかし、そのすぐ後に「もしかしてゲイなの?」と聞かれたので慌てて否定すると、ピアスを右耳だけに着けると同性愛者の意味合いがあるのだと教えられた。
やはり、慣れないことなどするものではない。
急いでイヤリングを左耳へと着け替えると「しかもイヤリングだったのかよー」と笑われ背中を叩かれた。
〝最早これまで〟と、クールなキャラクターを演じる為にした努力をおどけながら白状すると、女子と一気に心が近づいた感覚があった。
何かを掴んだと感じた僕は、この後、何度もこの時の感覚を思い出すようになる。
イヤリングはすぐに無くした。〈②へ続く〉